とても繊細で奇麗。開放されます。

『Freedom From the Known』はウルフガング・ティルマンスの抽象写真だけをとりあげたものとしては初めて作品集で、彼の象徴、具象主義的な作品に内在していた抽象性を探っている。本書は、ニューヨーク州ロングアイランド市にあるP.S.1現代アート・センターで2006年春に開催された、単独では初となるティルマンスの個展に合わせて出版されたもので、展覧会の主事を務めたボブ・ニッカスの寄稿文も収録されている。本書の25作品のうち24点はこのプロジェクトのために制作されたもので、公開されるのはこの展覧会が初めて。作品の多くは「カメラを使わない写真」で、ネガなしで、光を印画紙に直接当てて制作されている。展覧会では作品はすべてフレームに入れられていて、テープとピンで作品を据え付ける展示法を導入した先駆者的アーティストという印象を打破した。だが彼は正しかった。フレームがあることで、つかみどころがなく移ろいやすい抽象芸術作品に、浮力や重力と同様に宇宙空間の物体としての整合性が生まれるからだ。展覧会には1990年代の「Empire」シリーズの形象作品も出品されている。それらはコピー機やファクスで複製したものを最高解像度でパソコンに取り込み、大判サイズに拡大印刷して構成したもので、具象から抽象への転換となった。初期の作品を見ると、ティルマンスが象徴的、具象的なイメージから抽象芸術へ移行していく過程がわかる。総括すると、内省的な衝動によって作中の媒材選びや論題選びの自由が可能になっていることが、概念的な作品ほどよくわかる。